震災鎮魂句集「竜宮」文庫新装版

照井 碧さん(昭和37年生)の震災鎮魂句集「竜宮」(2012.9月刊・絶版)が、文庫新装版(2021.1.11)として再び発行されました。

僭越ながら心に残った作品群をご紹介申し上げました。○印は、特に感銘を受けた作品、まさし俳句ワールド特選句です。お読みいただければ幸甚です。

2011.3.11(金)14時46分18.1秒 東日本大震災 発災

泥の花・・・(春) 75句

泥の底繭のごとくに嬰(やや)と母

脈うたぬ乳房を赤子含みをり

○双子なら同じ死顔桃の花

御くるみのレースを剥げば泥の花

ランドセルちひさな主喪ひぬ

春の星こんなに人が死んだのか

毛布被り孤島となりて泣きにけり

朧夜の首が体を呼んでをり

一列に五体投地の土葬かな

気の狂(ふ)れし人笑ひゐる春の橋

牡丹の死の始まりの蕾かな

漂着の函を開けば春の昼

蒲公英が絮になつたら甦る

ありしことみな陽炎のうへのこと

○さよならを言ふために咲く桜かな

卒業す泉下にはいと返事して

骨壺を押せば骨哭く花の夜

逢へるなら魂にでもなりたしよ

一切を放下の海や桜散る

冥宮・・・(夏~秋) 57句

生きてをり青葉の雫頬に享け

いま母は龍宮城の白芙蓉

狂人のもの食へる黙(もだ)半夏生

朝顔は天界の色瓦礫這ふ

○いい人ほど虹を渡つていつた

漁火や海に逝きしは海に棲む

盆近しどれも亡骸無き葬儀

苧殻焚くゆるしてゆるしてゆるしてと

盆の朝迎ふる者のなかりけり

同じ日を刻める塔婆墓参

新盆の目礼のみとなりにけり

○外の輪は脚の無き群盆踊

○灯を消して魂わだつみへ帰しけり

流離・・・(秋)  27句

月明や賽の河原の蒼き鬼

すしきに穂やうやき出でし涙かな

鰯雲声にならざるこゑのあり

○彼岸花全く足らぬまだ足らぬ

亡き人となりゆく霧の深さかな

小鳥来るきのふは番けふ一羽

雪錆・・・(冬) 29句

風花や悲しみに根のなかりけり

倒れたるお地蔵霜を召されけり

太々と無住の村の青氷柱

極月や寂び浮いてゐる塩の釜

何て顔してゐるんだよ寒卵

寒夜座す見ぬ世の人を友として

じよいじよいと堅雪渡る葬の列

○寒昴たれも誰かのただひとり

真夜の雛・・・(冬そして春) 21句

今生のことしのけふのこの芽吹

節分や生きて息濃き鬼の面

春光の揺らぎにも君風にも君

○亡き子らの真夜来て遊ぶ雛まつり

月虹・・・(夏―秋) 14句

栗の花即身仏の濡るる唇

天の川漂流船の寂び深く

虹の骨泥の中より拾ひけり

虹忽とうねり龍宮行きの船

朝の虹さうやつてすぐゐなくなる

○朝顔の遥かなものへ捲かんとす

月虹の弧を黄泉(こうせん)へ継ぎにけり

One Comment

  1. まさし said:

    発災から10年、単なる時事俳句にとどまらない普遍的な作品の数々であります。
    新装版として出版されたことは、慶賀の至りです。
    古志の皆様には、是非ご一読をお勧めするものであります。

    照井翠(てるい みどり)さんの略歴
    昭和37年 岩手県花巻市生まれ。
    平成2年 加藤楸邨氏に師事 「草笛」入会
    平成14年 第20回現代俳句新人賞(現代俳句協会)受賞
    平成25年 「竜宮」により「第12回俳句四季大賞」および「第68回現代俳句賞特別賞」を受賞
    俳誌「暖響」「草笛」同人。

    2021年5月5日
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