連句に残されたdying message

横溝正史の“人形佐七捕物帳”第68作「お玉が池」からのご紹介(○付数字加筆&(注)byまさし)。

<引用ココカラ>

ちかごろ近所へ越して来た人物に、玉池庵青蛙(ぎょくちあん せいあ)という俳句の宗匠がある。

青蛙は、江戸でも一といって二とはくだらぬ大師匠、芭蕉のおきなの再来とまでいわれている。

ちょくちょく出入りしているうちに、佐七(注1)もいつか、春雨やなどとやり出したというわけだ。

白浪(注2)の砕けてちるや十手風(佐七こと十手風の十風) 

白浪をおいかけ行くや御用船(巾着の辰五郎こと五辰)

白浪のあとものすごし枯柳(佐七女房お久米こと粂女)

白浪の菜をひいていく痒さ哉(うらなりの豆六こと裏豆)

「裏豆さん、白浪が菜を引いて行くというのはわかるが、それが痒いとはどういうわけだえ」

「そら、謎俳句やがな。シラナミからナを引いてみなはれ。なにになるかわかりまっしゃろ」

「シラナミからナを引く・・・? シ・ラ・ミ あら、いやだよ。裏豆さん」

いずくんぞ知らん。

まもなく起こった事件で、謎俳諧が重要な役目をなそうとは、夢にも気付かぬ佐七一家であった。

<中略>

宗匠の青蛙は、机にむかっているところを、斬られたらしいのだが、

みると、机の上の紙に、連句(注3)が六句書きつらねてある。

その連句というのはつぎのとおりである。

①「峠路やみねもしぐるる旅ごろも」    青蛙(宗匠)

② 「寺あれ果てて住持いずこに」     十風(佐七)

③「主もなき宿に虫の音すみわびて」    五辰(巾着の辰五郎)

➃ 「山門の仁王いまも踏まえど」     裏豆(うらなりの豆六)

⑤「草とれば茨(いばら)の節に指さされ」  青蛙(宗匠)

⑥ 「竹吹きたおすやまおろしの風」    十風(佐七)

佐七:「これ、五辰に裏豆、おまえたち、こんな連句やったことあるかえ」

五辰・裏豆:「いいえ、親分、あっしゃすこしも覚えがございません」

身におぼえのない連句、

しかもこれは青蛙が斬られるまえに、書いたものらしいのである。

<中略>

身におぼえのない連句、それを斬られるまえに、青蛙が書いていたとしたら、

これは佐七にあてた、一種の暗号ではあるまいか―――

というのが佐七の意見である。

お久米:「ねえ、おまえさん、あたしゃこれゃ、漢字の謎じゃないかと思うよ」

佐七:「漢字の謎というと?」

お久米:「①の「峠路やみねもしぐるる旅ごろも」、

この峠という字、これは山偏に上下と書きます。

さて峯といえば山の上だから、山の上がしぐれてみえなくなれば・・・」

佐七:「あっ、なるほど、するとという字が残るわけだな」

豆六:「ああ、そやそや、すると、こら、謎俳諧やな」

<中略>

豆六:「②は「寺あれ果てて住持いずこに」、

お寺が荒れ果ててなくなったらちゅうわけや。

ところでここに持つという字がおます。持から寺をのけると、

手偏だけ残って、こらという意味やないか」

佐七:「③は、「主もなき宿に虫の音すみわびて」こいつはやさしいや。

住みわびるの住むという字は人偏に主、その主がいねえンだから、

人偏だけ残ってこりゃだ。

こうっと、①が下で、②は手、そして③が人とすると・・・

あっ、<下手人>だ」

<中略>

➃はなかなかむずかしい。さんざん頭をしぼったが、どうしてもわからない。

お久米:「おまえさん、これはあとまわしにしようじゃないか。

つぎのがわかれば、しぜんに解けてくるかもしれないよ」

佐七:「それじゃ⑤の「草とれば茨(いばら)の節に指さされ」にかかろう。

ふむ、こいつは簡単だ。

いばらという字は茨と書く。これから草をとればという字だ。」

豆六:「そやそや、そしていちばんどん尻⑥「竹吹きたおすやまおろしの風」は、

竹吹きたおすで、竹なくなるねン。こうっと竹という字がつく字は・・・」

お久米:「豆さん、それゃ⑤にある茨の節の節という字じゃないかえ」

豆六:「おっ、そうだ。節から竹をとればという字に似てらあ。

さいしょから読めば下手人○次郎」

あらためて、➃「山門の仁王いまも踏まえど」に目をやったうらなりの豆六。

豆六:「親分わかった。わかった。仁王はつまり二王、王がふたつや、それが今という字を踏まえれば、琴という字になるやおまへンか」

―下手人琴次郎-  謎は解けた。

<引用ココマデ>

(注1)佐七 :「人形佐七捕物帳」は、江戸の情緒あふれる物語設定と本格ミステリーの融合がおもしろい捕物帳である。主人公の佐七は、寛政6年(1794)甲寅の生れ、活躍が文化12年(1815)頃。人形を見るような男ぶりから人形佐七の二つ名で呼ばれるが、とかく女に弱いという人物設定である。 

(注2)白浪(しらなみ):盗賊の異称。 佐七一家が、岡っ引き(御用聞き)を稼業としているだけに、盗っ人を席題として洒落こんでいる。

(注3)連句:「俳諧(はいかい)の連歌」の別称。 発句(ほっく)が1句独立に作られるようになったので、これと区別し、また連歌とも区別して、俳諧の付合(つけあい)や歌仙・百韻・千句などをこう呼ぶ。(広辞苑)

One Comment

  1. まさし said:

    著名な作品群を併せてご紹介申し上げます。
    個性あふれる作品ばかりです。青空文庫で読めるものもあります。
    Stay Homeのご一興になれば幸甚です。
    半次捕物控   佐藤雅美(1941 – ご活躍中)
    半七捕物帳   岡本綺堂(1872 – 1939)
    銭形平治捕物控 野村胡堂(1882 – 1963)
    右門捕物帖   佐々木味津三(1896 – 1934)

    2021年4月23日
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